「お念仏」がテーマのアニメが作られる
アニメと言えば、子供やオタクのものだというイメージがありますが、時として信仰を深めるために制作されるものもあります。
浄土真宗においては、1998年に真宗大谷派が「蓮如上人500回忌法要」を記念して作られたアニメ映画「蓮如物語」が記憶に新しいところ。この時、本願寺派は同名の戯曲の方に力を入れていたので、アニメ映画は適当に協賛したというところでした。
「蓮如物語」は、配給は東宝で、原作は五木寛之。声優には松方弘樹、津嘉山正種、倍賞千恵子、古手川祐子、奥田瑛二、樹木希林とアニメにしては豪華キャスト。おまけにナレーションは吉永小百合。主題歌は米良美一が歌い、出演料で制作費がかなり高くなりそうなものでした。
実際、全国の真宗門徒がチケットを買わされ動員されましたが、もともとこの手の映画が興行収入を上げることは見込めず、その収益をめぐり真宗大谷派と松方弘樹さんが代表を務める「松プロダクション」が約7300万円(収入の半分)の支払いを求めて訴訟が起きたほどでした。これは和解で終わっています。
このアニメ映画の上映により、どれほどの門徒が蓮如上人に思いを馳せ、どれほどの人が真宗の教えに触れることができたかは分かりませんが、世に与えた影響力が大きいとはとても言えず、後に残ったのは裁判のもめごとでした。
さて、平成23年に行われる予定の「親鸞聖人750回忌法要」に向けて、今度は本願寺派がアニメの製作を行っているようです。
これは平成18年11月25日の中外日報で既に報じられている事ですが、今年の12月の完成を目指して進められているそうで、監修は梯實圓勧学と本願寺史料研究所の千葉乗隆所長、最終的にはDVDとVHSの、80分上下2巻になるそうです。
本願寺派製作のアニメと言えば、既に発売されているVHSアニメビデオシリーズ「仏典物語」「念仏物語」があります。お釈迦様と親鸞聖人について、教えを解説するアニメビデオで、内容はなかなかのできばえですが、実際はあまり売れておらず、製作会社のビジュアル80も倒産してしまいました。
結局、売れないんですよ、こういった宗教アニメは。よく対比されるのが、親鸞会の監修と言われるアニメ「親鸞聖人」ビデオがあり、シリーズで40万本売ったという破格の数字がありますが、これは異例の訪問販売が積極的に行われたことがあっての上でのこと。
現在、本願寺派は「新たな100万人門徒の誕生」をキーワードに750回忌法要を準備しており、40万どころではありませんから、よほど力を入れないと、「蓮如物語」や「仏典物語」の二の舞にもなりかねません。
問題の「親鸞さま」の内容について、中外日報によると
テーマは『お念仏』とした。始めてみる若い母親や子供たちにも分かりやすく見てもらえることを製作のテーマとし、恵まれた命、生かされている私、いつも仏様に見つめられている私をどう表現していくかを考えている。
とありました。
これを読んだ時、私は正直「終わった」と思いました。現在、法要予算として230億円もの金が門徒から集められていますから、アニメの製作費用は十分まかなえるものがあるでしょう。しかし、テーマを『念仏』にして、念仏相続を求める内容にするのであれば、それはアニメである必要はどこにもない。ハッキリ言わせてもらえば、アニメ「念仏物語」の蓮如上人の巻も『お念仏』がテーマであったが、登場人物が「念仏じゃ、念仏じゃ」と繰り返すだけのようで、とても「若い母親や子供たち」の心に残るようなものではなかった。今回の「親鸞さま」も、門徒を相手にする同じようなものになるのであれば、やめておいた方がいい。
むしろ、それだけの費用があるなら、10分でも15分のショートムービーでいいから、アニメ界の巨匠に監督してもらい、いじめ自殺が多い現代に向けた「命の尊さ」を訴える映像を作った方がいいのではないか。もしくは、有名なマンガ家に同様のテーマで、少年ジャンプなど有名雑誌に何回か連載マンガを描いてもらうのはどうか。社会的に大きな話題を持たせない限り、「新たな100万人門徒」を目指す法要にふさわしいものにはなりはしない。
もともと750回忌法要のテーマ「世の中安穏なれ」も、アニメのテーマ「お念仏」も、共にパンチがない。力のないテーマからは、100万人を動かすソフトなど、決して生まれはしないだろう。それが残念でならない。
とはいえ、期待してアニメ「親鸞さま」の完成を待ちたい。
蓮如物語 著者:五木 寛之 |
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